2022年度白馬賞馬事文化賞受賞記念
おれらの多度祭鑑賞記

 2023年1月16日、2022年度の白馬賞が発表されました。そこでめでたく馬事文化賞を受賞したのが、映画「おれらの多度祭」であります。(他人事のように書いてますが、もちろん私も1票入れてます)

新宿Ks Cinemaで鑑賞 フライヤー パンフレット末尾


 多度祭は上馬神事が極めて有名なお祭りで(というか、この映画も含めて、「多度祭」という用語は「上げ馬神事」とほぼ同義で取り扱われております)、多度大社の多度祭解説多度祭のWikipedia、あるいはこの映画のパンフレットによれば、上げ馬神事が始まったのは南北朝時代の暦応年間(1338〜1341)であるとされており、その後織田信長による焼き討ちで30年ほど中断したものの、本多忠勝が復興、その後は戦時中も一度も中断されることなく続けられてきた……というところで撮影されたのがこの映画です。そして、映画の撮影後、2020年になり、新型コロナウィルス騒動が勃発。戦争中でも続けられてきた上げ馬神事が、織田信長の戦禍以来の中止となったのでした。

 というわけで、この映画はコロナウィルスによる中断とは全く関係なく撮影されたものであり、それゆえ純然たるドキュメンタリー映画になっていて、コロナウィルス騒動にからめた変なメッセージは一切含まれておりません。新型コロナウィルスによる中断でどの程度文化の継承に影響が出るかは分かりませんが、コロナによる影響の外で撮られた、コロナ前の上げ馬神事を記録した映画として重要だと思います。

 私と多度大社、上げ馬神事の関わりについてですが、もちろん上げ馬神事自体を見に行ったことはありません。ただ、2012年秋に多度草競馬を観戦に行き、その後多度大社を参拝しております。なので、上げ馬神事の現場は見ています。なお、翌年いなべ草競馬観戦にあわせてこれまた上げ馬神事を開催している猪名部神社も参拝しております。

 で、この映画の感想と上げ馬神事の感想、重なる部分と重ならない部分があります。いくつか箇条書きに。

極めて男臭い映画である
 映画において、ほぼ女っ気はありません。競技の性質上そうだろ、といえるかもしれませんが、人の列を作る際に女性がいたっていいわけで、このあたりはさすが歴史と伝統ある祭りだな、と思いました。

登場人物が若い
 これはどうも地域によるらしいのですが(鑑賞後に監督さんに聞いた)、この地域は登場人物が軒並み若い。こういうお祭りだと、氏子総代的な、地元の長老が出てきて歴史と伝統について口出ししまくるイメージでした。が、祭りは本当に青年会の若い衆だけでおこなわれており、経験が若い衆に受け継がれていっております。どこぞの運動会のような引き継ぎノートもありません。まあ、これは歴史が進めば変わっていくのかもしれません。ただ、「特定のムラに伝わる秘伝の書」みたいなものがあってもいい気がしますが、残ってないのでしょうか。

動物虐待との関係について
 上げ馬神事と動物虐待問題は切っても切れない関係にあります。特に、昨今では専業の馬はおらず、周囲の乗馬クラブ等から借りてきているケースが多いようで、「上げ馬神事がなくなったら存在価値がなくなって肉になる馬」というのは実は存在しないのではないかと思われます(ここが(ばんえい)競馬と大きく違う)。とはいえ、やはり600年以上続いてきたものを現代の価値観でどうこうするというのは、現代人の傲慢ではないかという気もします。答えはありませんが、個人的にはこういう部分社会はあってもいい気がしています。ただ、600年前の馬と、今の馬とでは坂道で大暴れする耐性に大きな差があると思われるところで、少なくともサラブレッドを使うのは批判されても文句は言えないかな、とは思います。
 なお、一部では動物愛護法違反の行為もなされていたとのことであり、現代において法律違反が許されないことはいうまでもありません。

クラウドファンディングに気付かなかった
 自分の大失態なんですが、この映画の上映にあたり、クラウドファンディングが実施されていました。昨今のクラファンブームには違和感ありまくりで、「何かやりたいならテメーのカネでやれ、他人に頼ることを前提にするな」と日々思っているのだけれど、他方で他人がイベントに関与できるのがクラファンのよさでもあり、気付いてれば少しお金入れたのにな、と自分の感度の悪さを反省した次第です。

行きたいとは思わない
 この映画は観光映画ではありません。一応三重県の後援は取れてるみたいだけど。
 あくまで映画で映っている限り、ではあるのだけれど、人混みが凄すぎて、観光客としてこのお祭りを見に行きたいと思うか、といわれれば、Noです。この上げ馬神事はやるものであってみるものではないな、というのが正直な感想です。その意味でも、運動会に近いですね。

いなべとは関係が無い?
 これ、確かあとで監督さんに聞いたんじゃ無いかと思うんだけれど(但し、曖昧なので文責は全面的に私です)、多度の上げ馬神事といなべの上げ馬神事、全く関係が無いとのことです。もちろん、日本でここといなべにしか残ってないお祭りですから、600年間完全に無関係だったとは思わないですが、とりあえず両者の関係については多度大社、猪名部神社ともに語っておりません。なお、三重県教育委員会によると、いなべの上げ馬神事は「鎌倉時代、建久3年(1192)、員弁郡司の員弁三郎行綱が東員町大木に居城していた時、青年の士気を鼓舞するために流鏑馬神事をしたことに始まる」とのことで、多度よりも歴史があるようです。

神様が出てこない
 「多度大社の多度祭の上げ馬神事」となれば、当然「神」を意識するのが当然です。もともとは、馬が上がるかどうかで農作物の豊凶を占っていた、という側面はあるようです。
 が、現代においては農作物の豊凶は神様の手を離れ、科学で予想するようになりました。COVID-19なんて予想しようったって予想できません。
 そのため、もちろん安全祈願としてお祈りする場面はありますし、神様と切り離せない日本酒が登場する場面もありますが、全体としては神様とはほぼ無関係に神事が進んでいきます。まさに、上げ馬神事というのはこの地区にとって「そこにあるもの」であり、それ以上でもそれ以下でもないものなのだと思います。



 というわけで、編に観光目的によらず、それこそ汚い言葉が連発されてドン引きする人も出るであろうドキュメンタリー映画として、非常にいい映画だったと思います。あらためて、2022年度白馬賞受賞おめでとうございます。

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