西村京太郎氏と私

 2022年3月、西村京太郎氏が亡くなったという報道が出ました。

 西村京太郎氏に関しては、2020年からの新型コロナウィルスのトラブル後、湯河原の西村京太郎記念館の閉館が続いていてコロナが収まったら是非一度記念館でお目にかかりたいと思っていたところだったので、本当に残念です。というか、記念館で西村氏に会えるということを知ったのが2020年だった、というあたりが自分の駄目なところです。あのまわりは何回もうろちょろしてたのに。

 さて。
 私の競馬の三大始祖は言うまでもなくナムラコクオー・ノーザンポラリス・ライスシャワーの3頭(順不同)なのですが、読書の三大始祖は、というと、椎名誠・井上ひさし・西村京太郎(順不同・敬称略)となります。全2者は小学校高学年時代から、西村氏については中学校に入ってから、とにかく読みまくりました。
 私は基本的にはオタク気質なので、読書に限らず何についても深く狭くというタイプでありまして、西村氏と並ぶ同時代の量産型作家である、山村美紗氏や赤川次郎氏、内田康夫氏の本には目もくれず(内田康夫氏の本は親の影響で何冊かは読みましたが、あまり合わなかったので結果読まなくなりました。赤川次郎氏の本は2021年になって(集英社のキャンペーンに釣られて買った)「毒」を読んだのが人生で初めての赤川氏体験でした。山村氏の本は一度も読んだことがありません)、とにかく西村氏の本を読みまくっておりました。
 日野から電車に乗って東京に向かう際、往復すればだいたい1冊読める程度の読みやすさと分量で、非常にお手頃な作品が多かったというのが大きいのです。

 んで、大人になると読書量が減る訳なのですが、ここ数年、また西村氏の本を読むようになりました。
 大人になって読んで思ったこと。
 1 捜査の流れが強引。論理的に見えて実はまったく論理的ではない。
   ……子供でも気付よ、という感じですが。
 2 刑事訴訟の理解は酷い
   ……まあこれは仕方がない。
 3 読点の多い文体
   ……子供の頃にこれが気にならなかったのが不思議でならない。大人になって読んでビックリしました。
 4 やはり読みやすい
   3の読点のところが引っかかると途端に読みづらくなるのですが、そうならない限りではやはりすらすら読める。大人になって読書スピードが落ちたんじゃないかと思ってたんですが、久々に西村氏の本を読むとやはりさくさく読めるので、読書数を稼ぐのにももってこい。
 5 最近の本は酷いけれど、昔の本はチャレンジング
   最近の本は、「とりあえず新しい電車が出たから本にしてみた」感がありありで、もはや電車トリックもなにもない作品があったり、西村氏の政治的主張メインで電車は乗ってるだけみたいな作品があったりして、もうちょっとなんとかしてくれよ、といいたくなります。

 西村氏の影響として、自分がぱっと思い浮かぶのは2点。
 まず1つめは、いわゆる「名探偵シリーズ」と呼ばれる海外の有名探偵を使ったパロディ小説群。これの影響で、アガサクリスティ作品を読むようになりました。クリスティ作品を読むと、やはりオリエント急行やそして誰もいなくなった、アクロイド殺しなどの歴史的作品に出会えて、色々な人のうんちく語りについて行けるようになります。もちろん、映画化・ドラマ化作品が多い作家さんなので、色々見ていて楽しめます。

 そしてもう1つ。これは大人になってから気付いた。
 それは、自分が旅行好きになったこと。これは椎名誠さんの影響も非常に大きいのだけれど、自分が旅行好きになったことは、ほぼ間違いなくこの2人の本を読みまくったことが影響しております。様々な乗り物に乗ってあちこち旅をする。カメさんの生地東北や西鹿児島駅殺人事件の舞台となった西鹿児島駅へ行く(西鹿児島駅の名前が変わったことはショックでした)ことなどを思い描いて大きくなってきたのであります。椎名誠さんや十津川警部のように仲間や相棒と旅行する機会は少ない寂しい独り者ですが、それでも日本各地に行くことに抵抗感がないこと、色々な交通手段で旅をすることに何も違和感が無いことは、本当に両名の影響です。
 なお、これは大人になってからしばらくしてから気付いたことですが、多くの人はそう簡単に旅行に行かない、ということも分かりました(金銭面の問題ではなく、気持ちの問題として)。私はなにかにつけてふらふらと旅に出たくなってしまうんですが、世の多くの人はそんなことはないようです。

 上にも書いたとおり、2020年に記念館の存在+記念館で西村氏に会えることを知ってからは、西村氏に会える日のことを心待ちにしながら記念館のページを定期的に見てたんですが、残念ながら願いはかなわないまま終わってしまいました。

 これも上に書いたとおり、特に最近の量産作は正直品質的に疑問符がつくものが多いのですが、昔の作品を読み返すと、やはり挑戦的な作品が多く、面白いです。終着駅殺人事件なんかも、色々と突っ込みどころが多い作品ではありますが、それでも名作だと思います。西村氏原作の2時間ドラマもいい雰囲気のものが多くて好きでした。
 自分が人生で読んだのべ冊数だけみれば、ナンバーワンなのはほぼ間違いなく西村氏でありまして、これまで様々な作品を生み出していただいたことは本当に感謝しかありません。
 これまでお疲れ様でした。

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